ルラーブ神父

福井県の小浜を出発、道の狭い峠道を何度か越え、舞鶴、宮津、天橋立(知らないで来た)、京丹後に着く頃には雨が降り始めた。
天気予報通りだった。
しかし、この日は小雨ではなく、しっかり降り始めた。辺りはちょうど暗くなってきて、今晩の寝床はまだ確保出来てなかった。
Googleで急いで公園を探して、東屋か何か、とにかく屋根のある場所がある事を願った。
しかし、雨は次第に強くなり、100m進んだだけで、びしょ濡れになってしまう。公園行きを断念する方が良いと感じ、近くの小さな歩道橋の下で、しばし雨宿り。
「あそこに戻るしかないか…」
「あそこ」とは、ついさっき雨が降り始める前に行った教会だった。
カトリックの教会で中は閉まっており、裏に、マリア様が建っている小さな庭があった。すぐ横には教会の宿舎のような建物があった。
誰も住んでる気配のないその場所は、はっきり言って不気味ではあったが、そこにはちょうど雨を凌そうな屋根付きのガレージがあったのだった。
雨が少し弱まるのを待って、そこに戻ってみた。
祠の下にいる、小さなマリア様と、宿舎のような建物の前にいる、大きなマリア様の像にお祈りした。

まだ、ちょっと怖さはあったものの、不思議と、「良いですよ、休んで行きなさい」と受け入れて頂いた気がして、小さなガレージにテントを張らせてもらうことにした。
ちょうどテントの中からは、マリア様の後ろ姿と、時々雲の切れ間から満月が見え、久しぶりにロウソクを灯し、白檀を焚いて美しい夜を味わっていた。
さて、ご飯にしよう。
買ってきたサラダの袋を取りだし、開けようとしたが、テープが中々解けなかった。
ん〜、無理矢理チカラで開けると音がでるな、と思い、箸で遠慮気味に優しく袋を刺した。
すると、思いがけず、
「パンッ!」
と大きな音が出てしまった。
まーしょうがない。
大丈夫だろう。
さぁ、食べよう、
と、口に箸を運んだ瞬間、
バッ!
と音がなり、
急に辺り一面が明るくなった!

一瞬何が起こったのかわからなくなり、パニクった。
おそらく誰も居ないと思っていたこの宿舎には人がいて、
さっきの箸で刺した袋の破裂音で、びっくりし、外灯をつけたのではないかと思った。
僕も怖いが、相手ももっと怖いはず。
テントの中から「はい、ここに居ます、すいません!」と言い、外に出た。
雨に当たらないように配慮して、自転車はテントの裏に停めていたので、相手からはテントと僕しか見えないだろう。
わ〜まずいことになった。

外に立って、辺りを見回した。
しかし、一向に人の姿も見えなければ、声も聞こえない。
ドキドキしながら、しばらく待ってみたが同じだった。
そして、よく外灯の位置を確かめて察したのだが、おそらく時間でライトが勝手につき、暗闇の中てマリア様を照らすような設定になっているのではないだろうか。
時刻はPM7時12分。
きっと7時に点いたのだ。
よりによってあのタイミングで。

その後はテントをライトアップされたまま、「最後の?晩餐」楽しんだ。
寝る頃になると、ライトは勝手に消え一安心。
雨の夜を凌がせてもらった。
翌日も雨の予報ではあったが、朝起きると雨は上がっていた。
今のうちに、と思い、急いでテントをたたみ、マリア様に挨拶してから、郵便ポストに裸で1000円札を入れて、その場を後にした。

トイレに行きたかったので、一番近いJR峰山駅にまず向かったのだが、すぐに雨は強まり、結局午前中は駅の待合室で過ごした。
雨が弱まり、次の村に出発する前に、ひとつだけ気になる場所があって、そこに行ってみることにした。
それは、京丹後にあるもう一つのカトリック教会。
そこで、驚くべきストーリーを聴くことになるとは知らずに、、。

教会に着くと、扉は開いていて、中に人がいるのが見えた。
なんだか、「良い気」がした。
向こうの人もこちらに気がついて、入口まで来てくださったので、挨拶をし、見学をしたい旨を伝えた。
対応してくれた女性は、親切に僕を中に案内してくれた。中には、ほかに三名の年配女性が居て、ちょうど今、ミサが終わり、神父様が帰られたのだと教えてくれた。
しばらく教会の中を見て回ったところで、最初に案内してくれた婦人が、「私はまだこの道に入ったばかりなんですが、、」と言いながら、教会の成り立ちなどを話してくれたのだが、これを聞いて自分の耳を疑わずにはいられなかった。
彼女の話すところによると、およそ130年前、明治18年に宣教師としてこの地へやってきた「ルイ・ルラーブ神父」は、宮津市はもちろん、京都や兵庫まで、「自転車」で布教活動を行っていた、と言うではないか!!
つまり、ルイ・ルラーブ神父は昔、僕と同じように自転車で、この辺りの山を雨の中、行ったり来たりしていたことになる!
僕が感じていた「受容感」は、きっとルイ・ルラーブ神父ものだ!
昨日、僕が自転車を止めて、テントを張ったガレージにも、神父の自転車と、神父自身の面影があったに違いない。

その日は冷たい雨の中、山道を漕ぎ続けた。
まるで、タイムスリップしてるかのように楽しく、軽い足どりで。

Unwinding INK (Currently reconstructing)

What's up +818065594983 FB Messenger(Mikis Taguchi) Bodyworkmikis@gmail.com

0コメント

  • 1000 / 1000